クリニックを開業するために融資を受けたいけれど、どこから借りればいいのかわからない。審査に通るかも不安だし、返済額が経営の足枷にならないか心配。そんな悩みを抱えている先生も多いのではないでしょうか。
特に歯科医院の開業には、一般の診療所とは異なる注意点があります。融資先の選定から事業計画書の作成まで、専門知識が求められるシーンが多々あるでしょう。しかし、歯科に特化した税理士の先生に相談すれば、そんな不安も解消できるはずです。
本記事では、クリニック開業に必要な資金の目安から、おすすめの融資先、審査のポイント、返済計画の立て方まで、医院開業に役立つ情報が満載です。この記事を読めば、開業資金の調達に関する悩みが解消され、自信を持ってクリニック開業に踏み出せるでしょう。是非最後までお付き合いください。
クリニック開業に融資が必要な理由
開業に必要な資金の目安
クリニックを開業するには、多額の資金が必要になります。診療科によって差はありますが、おおよそ数千万円から1億円程度の資金が必要だと言われています。内科なら約6,000万円以上、外科なら約3,000万円以上、眼科や耳鼻咽喉科なら約4,500万円以上、小児科なら約5,500万円以上、産婦人科なら約6,000万円以上が目安とされています。これだけの資金を自己資金だけで賄うのは難しいでしょう。そのため、多くの場合、融資を受けて不足分を補うことになるのです。
自己資金だけでは不足
クリニック開業には設備資金と運転資金の2種類の資金が必要です。設備資金は物件取得費、内装工事費、医療機器購入費などに使うお金のことで、運転資金は家賃、人件費、医薬品費など事業運営のために幅広く使える資金のことを指します。審査支払機関からの診療報酬の入金は数ヶ月先になるケースが多いので、人件費や医薬品費を支払うと手元資金が不足しやすくなります。そのため、運転資金をあらかじめ確保しておく必要があるのです。自己資金だけでこれらの資金を賄うのは難しいでしょう。
開業後の融資は難しい
クリニックの開業後に融資を受けることは容易ではありません。開業後に融資を受けようとすると、お金に困っていると思われてしまい、金融機関から信用してもらうのは難しくなるからです。融資をする側の立場に立って考えると、資金繰りに困っているクリニックを信用して融資をしようとは考えないでしょう。金融機関からの融資はあくまでクリニックを開業するための資金調達の手段として捉えておくことが重要です。開業後の資金繰りに余裕を持たせるためにも、開業前の段階できちんと資金計画を立てておく必要があります。
クリニック開業時に利用できる代表的な融資先
日本政策金融公庫の融資制度
クリニック開業時に利用できる代表的な融資先の1つが、日本政策金融公庫です。日本政策金融公庫は、設備資金として最大7,200万円、運転資金として最大4,800万円の融資を受けられます。ほとんどの場合、低い固定金利で融資を受けられますが、保証人や担保などの条件によって金利は変動します。日本政策金融公庫の特徴は、運転資金の返済期間が7年となっていますが、設備資金の返済期限が20年と長いことです。また、融資を受けてから2年間は利息のみ返済すればよいという据え置き期間が設けられています。他の金融機関と比べると審査に時間がかかりますが、融資を受ける利点が多い金融機関だと言えるでしょう。
民間金融機関の開業支援ローン
クリニック開業時に利用できるもう1つの融資先が、銀行などの民間金融機関です。メガバンクや地方銀行などさまざまな金融機関がありますが、クリニック開業のために融資を受けるなら地方銀行がおすすめです。地方銀行の中には、融資以外のサポートやスタッフの研修を受け持ってくれるところがあるからです。クリニック開業の準備期間は、やらなければならないことが多く、スタッフの研修まで手が回らないこともあるでしょう。そんなときに融資以外のサポートをしてくれる地方銀行を利用していれば、余裕を持って準備ができます。大手銀行と比べて金利が低かったり、審査を通過しやすいなど、地方銀行を選ぶメリットは多くあります。
医師会や自治体の支援ローン
医師会や地方自治体からも、クリニック開業の際に融資を受けることができます。医師会は、クリニック開業のための「開業支援ローン」を提供しており、開業資金を援助してもらえます。多額の資金を融資してもらえますが、医師会に加入しなければならないという条件があります。一方、地方自治体からは「制度融資」という方法で資金を借りられます。制度融資では信用保証としてお金を支払うことで、低金利にしてもらえるなど好条件で融資を受けられます。制度融資を活用して資金調達をする場合は、地方自治体と連携している金融機関に相談してみるとよいでしょう。ただし、医師会や地方自治体に融資をお願いする際は、開業エリアの医師信用組合にあらかじめ相談しておく必要があります。
福祉医療機構やリース会社の活用
金融機関以外にも、福祉医療機構やリース会社から融資を受けるという方法があります。無床診療所としてクリニックを開業するなら、福祉医療機構の融資を受ける際に注意が必要です。無床診療所の場合、「診療所不足地域」に開業しなければ融資を受けられません。開業エリアが診療所不足地域に含まれているかどうかは、事前に調べておく必要があります。一方、リース会社の融資は審査を通るまでの時間が短いというメリットがある反面、高金利で医療機器をリースしなければならないというデメリットもあります。リース会社を選ぶ際は、こうしたマイナス要素も念頭に置いておくことが大切です。
クリニック開業融資を受ける際の流れと注意点
融資条件の確認と必要書類
クリニック開業時に融資を受ける際は、まず融資の希望金額を検討したうえで、借入上限額、金利、返済期間といった条件をそれぞれ確認し、利用したい融資を決めましょう。融資を申し込んだら、借入先の指示に沿って事業計画書などの必要書類を提出する必要があります。事業計画書には、クリニックの理念や導入する医療機器、内装の見積もりなど具体的な金額を記載しなければなりません。事業計画書の内容が充実していないと、審査に通過できない可能性があるため、時間をかけて作成することが大切です。
融資担当者との面談と審査
融資担当者との顔合わせが済んだら、必要書類の内容や開業後のビジョン、医師の人柄などをチェックするための面談が行われます。面談では、なぜクリニックを開業したいのか、どういう理念のもとクリニックを経営していくのかを明確に伝えることが重要です。融資先から信用され、お金を貸し付ける価値があると判断してもらえるかどうかが審査のポイントになります。審査期間は融資先によって異なりますが、だいたい2週間程度が一般的です。審査に通った場合は、融資担当者から提案内容の連絡が来るとともに、正式な借入契約書が送付されます。
希望額は多めに申し込むのがコツ
クリニック開業の際の融資審査に通過しても、必ずしも希望額を満額借りられるとは限りません。希望融資額を記載する場合は、本来の希望額よりも上乗せした金額を提示しておくのがコツです。万が一、希望額の満額を借りられなかった場合でも、当初の予定通りの資金が調達できるからです。ただし、あまりに高額な融資を申し込むと、返済能力に懸念があると判断され、審査に通過できない可能性もあります。バランスを考えて、適切な融資額を設定することが大切だと言えるでしょう。
土地・建物の契約後に申し込む
クリニックを開業する際の融資は、開業する土地や物件を契約できていないと申し込めません。そのため、土地や物件を選ぶ時間や契約に時間がかかることを前提に動く必要があります。融資を受ける際は、開業までのスケジューリングを明確にしておくことが大切です。また、土地や物件の契約が済むまでに事業計画書を作成しておけば、スムーズに開業準備を進められるでしょう。融資の申し込みが遅れると、開業時期が延期になってしまう可能性もあるため、余裕を持ったスケジュール管理が求められます。
開業融資の審査で重要なポイント
開業の動機や診療理念
クリニックの開業融資の審査では、開業の動機や診療理念がとても重要視されます。単に収入を上げたいという理由だけでは、審査員に良い印象を与えることはできないでしょう。むしろ、地域医療の活性化に貢献したい、今まで培ってきた知識や技術でより多くの患者さんを救いたいといった崇高な理念を持っていることが求められます。こうした開業医にしかできない医療のビジョンを持ち、それに基づいた堅実な事業計画を提出できれば、融資担当者にも良い印象を与えられるはずです。事業計画書の作成時は、クリニック開業の動機や理念を明確に打ち出すことを心がけましょう。
自己資金や借入状況の説明
クリニック開業の審査では、自己資金の額や他の借入状況なども重要なポイントになります。医師は一般的に高い年収を得ており、社会的信用度も高い職業ですが、だからといって自己資金なしで融資を受けられるわけではありません。審査を通過するためにはある程度の自己資金を用意しておく必要があり、自己資金が少ないほど通過は難しくなります。また、他の借入がある場合は、その内容によって審査に悪影響が出ることもあるため注意が必要です。自己資金と借入のバランスを考え、返済計画に無理がないことを審査員にアピールできるよう、入念な準備を行いましょう。
根拠のある事業計画書の作成
融資の審査を通過するためには、しっかりとした根拠に基づいた事業計画書を作成することが何より大切です。事業計画書の内容があいまいだったり、根拠に乏しかったりすると、審査員に良い印象を与えることはできません。売上予測や必要経費の算出根拠を明確に示し、クリニック経営の青写真を具体的に描けるような事業計画書でなければなりません。特に、クリニックを開業してからどのように経営を軌道に乗せていくのかという点は重要で、その過程で発生し得るリスクへの対策なども盛り込んでおく必要があります。事業計画書の作成は簡単ではありませんが、融資獲得のカギを握る重要な要素であることを理解しておきましょう。
融資以外の開業資金の調達方法
創業者向け補助金・給付金
クリニックの開業資金は融資だけでなく、補助金や助成金を活用して調達することもできます。国や地方自治体が実施している創業者向けの補助金や給付金制度は、クリニック開業の強い味方になってくれるでしょう。これらの制度は、所定の要件を満たせば返済不要で資金を得られるというメリットがあります。ただし、補助金や給付金を受け取るためには審査を通過する必要があり、必ずしも希望通りの額を得られるとは限りません。また、申請のタイミングを逃すと受け取れなくなってしまう可能性もあるため、早めに情報収集を行っておくことが大切です。
事業継承・引継ぎ補助金
事業継承や事業引継ぎを行う際にも、活用できる補助金制度があります。例えば、中小企業庁が実施している「事業継承・引継ぎ補助金」は、事業承継や事業再編・統合を行う際の経費の一部を補助してくれる制度です。クリニックの承継を考えている先生にとっては心強い味方になるでしょう。ただし、この補助金の対象になるのは中小企業者等に限られており、医療法人は含まれていません。また、申請には事前の計画策定が必要で、審査もあるため、受給までにはそれなりの時間と手間がかかります。事業継承を予定している場合は、早めに情報を集め、申請の準備を進めておくとよいでしょう。
トライアル雇用助成金
クリニック開業時には、スタッフの確保も大きな課題になります。特に開業したばかりの時期は、人材採用にコストをかけられない場合も多いでしょう。そんな時に活用したいのが、厚生労働省が実施している「トライアル雇用助成金」です。この助成金は、従業員を試行的に雇用する際の賃金の一部を助成してくれる制度です。助成期間は最長3ヶ月で、1人当たり月4万円の助成が受けられます。ただし、トライアル雇用終了後に正社員として雇用することが条件になっているため、単なる短期的な人材確保の手段としては使えません。あくまでも長期的な雇用を前提とした制度であることを理解しておく必要があります。
開業融資の金利と返済期間の選び方
固定金利と変動金利の特徴
クリニック開業の際の融資では、金利が固定か変動かを選択する必要があります。固定金利は一定期間金利が変わらないため、返済の計画が立てやすいというメリットがあります。ただし、市場金利が下がっても金利は下がらないため、結果的に支払う利息の総額は高くなってしまう可能性があります。一方、変動金利は市場金利に連動して金利が変動するため、金利が下がればその分支払う利息も少なくて済みます。しかし、金利が上昇すれば返済額も増えてしまうため、市場の動向を常にチェックしておく必要があります。金利タイプの選択は、自身の経営方針やリスク許容度を踏まえて、慎重に判断することが大切だと言えます。
返済期間で月々の返済額が変化
融資の返済期間の選択も、クリニック経営に大きな影響を与えます。返済期間が長ければ、月々の返済額を抑えることができるため、経営の負担が軽減されます。しかし、その分支払う利息の総額は増えてしまうというデメリットもあります。逆に返済期間が短ければ、支払利息を少なく抑えられる反面、毎月の返済額は多くなってしまいます。返済期間の選択は、開業後のキャッシュフローをシミュレーションしながら、無理のない返済計画を立てることが重要です。自身の経営方針や将来の見通しを踏まえ、長期的な視点で判断することが求められると言えるでしょう。
無理のない返済計画が大切
クリニックを開業するには多額の融資が必要になりますが、いくら有利な条件で借りられたとしても、返済できなければ意味がありません。融資の申し込みに際しては、開業後の収支見通しを慎重に検討し、無理のない返済計画を立てることが何より大切です。特に開業当初は思うような収益が上がらないことも珍しくないため、返済の負担を軽減するために、元金の据え置き期間を設けてもらうのも一つの方法です。また、想定外の出来事によって資金繰りが悪化した際のセーフティネットとして、追加融資の可能性についても確認しておくとよいでしょう。万全の備えを怠らず、慎重な資金計画を立てることが、クリニック経営の成功へとつながります。
専門家に相談して融資の成功率アップ
クリニック開業には多額の資金が必要であり、その調達には金融機関からの融資が欠かせません。しかし、融資の申し込みから実行までには多くの手続きと審査があり、それを滞りなくクリアするためには専門家の助言が不可欠です。特に歯科医院の開業であれば、歯科に特化した税理士に相談するのがおすすめです。歯科医院の開業には一般の診療所とは異なる注意点があるため、その分野に精通した専門家のアドバイスは極めて有益だと言えます。また、事業計画書の作成など、融資申し込みに必要な書類の準備も、専門家の助言を受けながら進めることで、ミスを防ぎ、審査通過の確率を高めることができるでしょう。信頼できる専門家を見つけ、しっかりと連携を取ることが、円滑な開業資金の調達には欠かせません。
医院開業時の融資に関するまとめ
医院開業には多額の資金が必要ですが、自己資金だけでまかなうのは難しいでしょう。融資を受けることは避けられませんが、審査のハードルが高く、返済の負担も大きな懸念材料です。特に歯科医院の開業には、一般の診療所とは異なる注意点があるため、専門家のサポートが欠かせません。
そこで本記事では、医院開業に必要な資金の目安や、おすすめの融資先、審査のポイント、返済計画の立て方など、融資に関する重要事項をわかりやすく解説しました。歯科に強い税理士に相談しながら、慎重に融資先を選び、無理のない返済計画を立てることが、円滑な開業資金の調達につながります。本記事の内容を参考に、しっかりと準備を進めていきましょう。
項目 | ポイント |
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開業資金の目安 | 診療科によって異なるが、おおむね数千万円から1億円程度 |
おすすめの融資先 | 日本政策金融公庫、地方銀行、医師会、信用保証協会など |
審査のポイント | 事業計画の具体性、自己資金の額、借入状況など |
返済計画の立て方 | 無理のない返済額を設定し、元金据え置き期間の活用も検討 |
アドバイス | 歯科に強い税理士など、専門家に相談しながら進めることが重要 |